
▲大潟村の観光名所「桜と菜の花ロード」
秋田県大潟村
3340号(2025年11月17日)
大潟村 総務企画課

大潟村は秋田県の中西部、男鹿半島の東側に位置する自治体です。北緯40度、東経140度に位置し、日本で唯一緯度と経度が10度単位で交わる場所として知られています。人口約3千人、総面積は約170km²の小さな村です。総面積の約7割を農地が占め、村全体が海抜0m以下に位置し、周囲は52kmの堤防で囲まれています。
村の住宅地は干拓地の西寄り1カ所に約4km²の総合中心地としてコンパクトにまとまっています。生活の場と営農の場が完全に分離されていることが特徴で、住宅地の周囲には約11,000haに及ぶ広大な農地が広がっています。
大潟村は戦後日本の食糧生産基地として、当時日本で2番目に大きい湖である八郎湖の干拓により誕生しました。全国各地の希望者の中から選抜された入植者は、38都道府県から計589名にのぼります。干拓の目的である「日本農業のモデルになるような生産および所得水準の高い農業経営を確立し、豊かで住みよい近代的な農村社会をつくる」ことを担ったパイオニアといえます。農家は恵まれた環境を活かし、消費者の視点に立った安心・安全な農産物の生産に取り組むとともに、地域の特色を活かした多様な農業経営を展開しています。
〈春〉
春は色鮮やかな花々の開花とともに始まります。県道沿い約11kmにも及ぶ「桜と菜の花ロード」は圧巻の景観で、訪れる人々の心を和ませてくれます。田んぼには水が張られ、空を映す鏡のような景色が広がり、農作業が始まる活気に満ちた季節です。

〈夏〉
田畑の農作物は太陽の恩恵を受けてすくすくと成長し、小麦は色づき収穫の時期を迎え、広大な水田は力強く育つ稲で彩られます。
また、ソーラーカー・ソーラーバイシクルの大会「ワールド・グリーン・チャレンジ」や長い直線コースが特徴の中央幹線排水路を活用したローイング大会「サマーレガッタ」など、さまざまなイベントが催され、訪れる人々をサルビアやひまわりが出迎えます。

〈秋〉
稲穂は一面黄金色に染まり、いよいよ収穫の季節です。大潟神社では豊穣を願うお祭りが催され、大地の恵みに感謝し、無病息災を祈ります。
村内の木々は赤黄色に染まり、秋田県の自然をモデルにした自然公園「生態系公園」を散策すると美しい紅葉を満喫できます。

〈冬〉
雪が村全体を覆い、真っ白な世界が広がります。多くの農産物を生み出した大地も、しばし休息の時を迎えます。
村は鳥たちの越冬地としても知られ、ガンや白鳥が飛来する姿を間近に見ることができます。


発足から60年以上が経過し、多くの農家では世代交代が進み、現在は後継者を中心とした営農体制が確立しています。
入植当初は589戸あった農家数は年々減少し、2025年4月時点では451戸となりました。それでも農地は村内の農業者によって継承されており、耕作放棄地は存在しません。その結果、1戸あたりの平均経営面積は当初の15haから現在は約20haへと拡大しています。
農業経営は、米を主体に大豆・麦類などの土地利用型作物、かぼちゃ・ニンニク・たまねぎなどの高収益作物、野菜や花きなどの施設園芸を組み合わせた複合経営が行われています。
また、米の6次産業化を推進しており、「パックライス」や「米粉餃子」など多様な商品が開発され、農産物や加工品を中心とした輸出への取組も行われています。

1980年代半ばから有機農業への取組がはじまり、90年には農薬の空中散布を中止し、全国に先駆けて無農薬栽培や有機栽培が拡大しました。村の土壌には窒素、カリ、リン酸、ケイ酸など作物の生育に必要な養分が豊富に含まれています。また比較的風が吹く日が多く、いもち病菌が好む多湿条件になりにくいため、肥沃な大地が有機農業にとって好条件となっています。
2023年4月には、国の「みどりの食料システム戦略」を踏まえ、有機農業に地域ぐるみで取り組む産地「オーガニックビレッジ」となることを宣言し、2027年度を目標年度に定め、次の目標達成をめざしています。

2022年、環境省による「脱炭素先行地域」に選定されました。
「脱炭素先行地域」とは、全国で少なくとも100カ所を選定し、地域特性などに応じた先行的な脱炭素への取組を実行することで、地方創生に資する地域脱炭素のモデルを示し、全国的な脱炭素の広がり(脱炭素ドミノ)を促す役割を担う地域です。
村では2030年までに村内の対象エリアで使用される電力を100%自然エネルギー由来とすることを目標に掲げています。さらに、2050年には、電気以外の灯油、軽油、ガソリンなどのエネルギーもすべて自然エネルギー由来とし、完全脱炭素の村をめざしています。
この目標を達成するため、現在「もみ殻バイオマスボイラーによる地域熱供給」「太陽光発電による電力供給」の2つを主軸に事業を進めています。
①もみ殻バイオマスボイラーによる地域熱供給

村では広大な農地を活用した大規模農業が展開されていますが、稲作の副産物として排出される大量のもみ殻は、田んぼの暗渠資材や畜舎の敷き材として一部利用されているものの、半数以上は未利用のままとなっていました。
地域特有の未利用資材「もみ殻」を燃料とするバイオマスボイラーを導入し、90度まで温めたお湯を、熱導管を通じて村内各施設へ供給しています。施設に設置された熱交換器を介して、既存のボイラーに代わり施設内の水を加温する仕組みです。
2025年2月から稼働を開始したバイオマスボイラーは、同年8月時点で村内の温泉施設など5施設に熱を供給しています。これらの施設では従来、灯油などを使ってお湯を沸かしていましたが、バイオマス熱供給によりお湯を沸かすために必要な熱量の約85%を賄える見込みです。これにより化石燃料の使用量が削減され、年間1,550トンのCO2排出量削減が期待されています。
また、燃焼後に排出される「もみ殻くん炭」は土壌改良材として利用することができます。くん炭を水田へ直接投入することで、炭素固定が促進され、CO2削減にもつながります。

②太陽光発電による電力の供給
公共施設や民間事業所などに自家消費用の太陽光パネルと蓄電池を※PPA方式により設置しています。
発電された電力は施設所有者が購入し、施設内で利用できる仕組みです。
2025年8月現在、村内のホテルや温泉など3施設に太陽光発電設備が設置され電力供給が開始されています。太陽光パネルと蓄電池の導入により、これらの施設では年間使用電力量の約50%を賄うことが可能となり、化石燃料の使用量を半分に減らすことができます。これにより、年間約510トンのCO2排出量が削減される見込みです(これは約1,000人が1年間に排出するCO2量に相当します)。
また、太陽光発電設備を導入した3施設は指定避難所などに指定されており、余剰電力は蓄電され夜間の需要や災害時の非常用電力として活用されます。これにより、停電が発生した場合でも昼夜を問わず避難所としての機能を維持することが可能です。
現在電力供給が開始されているのは3施設ですが、2026年度までに合計28施設への設備設置と電力供給を予定しています。
※PPA方式・・・太陽光発電設備を所有する事業者(自治体など)と電力を必要とする需要家(使用者)が電力を売買するための契約方式

2024年10月1日に大潟村は創立60周年を迎えました。八郎湖の干拓によりわずか6世帯14人から始まったこの村は、挑戦と創造の歴史を礎に、豊かな自然とともに歩み続けてきました。この歩みを止めることなく、これからも持続可能な村づくりを進めてまいります。
ぜひ一度大潟村にお越しいただき、眼前に広がる広大な農地、安全・安心の農産物、雄大な干拓の歴史をご体感ください。
大潟村 総務企画課