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見渡せない情報

印刷用ページを表示する 掲載日:2026年5月25日更新

東洋大学国際学部国際地域学科教授 沼尾 波子(第3360号 令和8年5月25日)

 デジタル化の進展にともない、紙の資料を減らし、データで保管・共有する流れが急速に広がっている。自治体でも、文書管理や起案、決裁などをオンライン上で行う仕組みが一般化しつつあり、「ペーパーレス化」や「DX推進」が重要な課題となっている。検索や共有の容易さなど、その利便性は大きい。だが一方で、情報が見渡しにくくなるという課題も生じているように感じる。

 近年、大学では、情報整理がうまくできず、結果として単位取得に苦労する学生が少なくない。大学では通常、一学期に十科目以上を履修し、それぞれにテキストや配布資料、レポート課題等がある。それ自体は昔から変わらない。だが現在は、それらの情報のほぼすべてが一台のパソコンやタブレットの中に収められている。

 もちろん、端末一つで必要な情報をどこでも閲覧できる点は便利である。しかし、そこには課題もある。紙の資料であれば、机の上に積み重なった冊子や配布物を見ることで、「これだけ読まなければならない」「これだけ課題が残っている」と作業量を感覚的に把握できた。一方で、データ化された情報は画面の奥に埋もれ、全体像が見えにくい。自分が抱えている課題や締切、優先順位を把握しづらくなっているのである。

 さらに、以前は大学の掲示板を見れば課題や休講情報を一覧できたが、現在は授業ごとのウェブページに自らアクセスし、必要な情報を探さなければならない。情報の整理や収集、管理が得意でない学生にとって、これは大きな負担となる。

 これは自治体の仕事にも通じる。電子決裁や庁内システムの導入が進む一方で、必要な情報が複数のシステムやフォルダに分散し、「どこを見ればよいかわからない」という状況も生じている。担当者しか保存場所を把握していない文書もあり、異動時の引き継ぎで苦労することもある。

 デジタル化は、本来、業務を効率化し、情報共有を円滑にするためのものである。しかし、運用を誤れば、情報を「ブラックボックス化」し、かえって全体像を見えにくくしてしまう。特に職員数の限られる町村では、一人ひとりが多くの業務を担う。だからこそ、単に電子化を進めるだけではなく、誰が見てもわかり、引き継げる形で情報を整理・共有する視点が、これまで以上に重要である。あわせて、一覧性の乏しい情報管理に苦手意識を持つ職員が、安心して業務を進められるような支援や工夫も求められるだろう。