総合地球環境学研究所プログラムディレクター 荘林 幹太郎(第3332号 令和7年9月8日)
気候変動が気温上昇だけではなく、干ばつや洪水などの極端な気候現象のリスクを増加させることはすでに実感として感じられるレベルになっている。その影響を最も激烈に受ける農業については、これまでも、国、地域、農家レベルで、高温・干ばつ耐性品種の開発、水管理システムの高度化、作付け時期や作目の変更、農業共済や収入保険への加入など、さまざまなハード・ソフトの適応策が講じられてきた。
一方で、干ばつ適応策として最も効果的な手法の一つであるダムなどの貯水容量の強化は容易ではない。我が国では農業予算の大きな割合が農業水利施設の建設や更新に充てられてきた結果、干ばつに対する全体的なレジリアンスは多くの国に比べて高い水準にある一方で、それら施設の更新に加えて新規水源を開発する財政的余地は小さい。OECD(経済協力開発機構)では、毎年の加盟国の農業予算のモニタリングを行っており、それによると農産物生産額に対する比率で示す我が国の農業インフラ予算額は、他国に比して圧倒的に大きいことが、そのことを強く示唆している。
このようななかで、これまでの適応策に加えて「できることは何でもトライする」というフェーズにわれわれは入ったのかもしれない。たとえば、既存の貯水容量の「時間的な配分」の変更というアイデアはどうだろう。一般的には、農業用水用の貯水池(ダムやため池)は、代搔きから田植えとその後の作付け初期に水位が下降し、梅雨に水位が回復し、その後の出穂期などの用水が重要な時期に水位が再び低下するが、空梅雨の場合、このパターンが崩れ最も用水が必要な時期に不足することとなる。そこで、予測が難しい空梅雨に備えて、田植えから梅雨の開始までの水利用を、最初から干ばつ時のような節水型の水管理で行い、梅雨に入って利水ダムの貯水量が確認できた段階で通常の水管理に戻すという方法である。もちろん、その時点でみると節水の必要性がない段階での節水には環境支払いなどの財政手法により農家の労力や費用を補償するような強力な奨励策や貯水池に依存する農家全体の協調行動も必要となるため、実現のハードルは高くその効果も未知数ではある。しかしながら、前例のない干ばつに対しては前例のない発想も検討しなければならないほどの危機に我々はすでに直面しているのではないだろうか。