國學院大學まちづくり学部長 西村 幸夫(第3319号 令和7年5月19日)
JNTO(日本政府観光局)の発表によると、本年の訪日外客数も過去最速で1000万人を突破したという。今年の年間外客数も4000万人に迫ろうかという勢いである。次第に深刻となりつつあるオーバーツーリズム問題もたびたび報道されるようになってきた。
この問題を町村はどのようにとらえたらいいのだろうか。――一部有名観光地の問題だとして、無関心でいることもできるだろう。逆に、できればインバウンドの一部でも取り込めないものかと種々の施策をこころみるところもあるだろう。今後想定される事態に向けて、町村はどのようなスタンスでインバウンド問題と向き合えばいいのだろうか。
このさき、日本への旅に慣れてきた外国人の一定数は間違いなく日本の田舎に関心を持ってやってくるようになるだろう。なぜなら、本来の日本らしさや自然の豊かさは田舎にこそあるからで、そのことに次第に多くのインバウンドの旅行者、とりわけ繊細な旅人は、確実に気づいていくことになる。ほかの同国人が行っていない場所に行ってみたいと思う旅行者も増えるだろう。問題は、その時に備えて今、何をやるべきかである。
まず大切なのは、自分たちが持っている田舎の価値をはっきりと自覚することである。たとえば、いかに地味であれ、日本の田舎ほど各集落に祭礼が残っており、それが地域ごとに異なっているような国は多くない。海外の祭りの多くはキリスト教やイスラム教、ヒンズー教などの大宗教の枠から自由ではないからである。
また、山や海の自然の多様さ、豊かさも他に例を見ない。それは魚介類や山野草の種類の豊富さを見れば一目瞭然である。日本は生物多様性のホットスポットなのである。こうしたことの価値を強みとして自覚しなければならない。
そして、たとえばALTやそのOBのように、現在身近に接することのできる外国の方とのつながりを太くして、口コミを通して、信頼のできる海外の仲間に情報を発信していくことである。こうした地道な戦略こそが、田舎の本当の理解者を海外に広めることにつながる。